彼が勤める会社は同族企業で、社長を「社長様」と呼ぶくらいワンマンなところだった。しかし、右肩上がりで売上が伸びている時は、ワンマン経営は威力を発揮する。事実、数年前までは彼の会社も例外ではなく、構造不況が指摘されていた業種ではあったが、税務署から優良法人として表彰されたり、ボーナスも同業他社から比べればよかったようだ。
しかし、社長が退任し、その任を息子に渡したあたりからチグハグになっていったという。新しいことを始めようと花火は上げるが、継続、持続がなかったり、とてもその会社には不似合い(というより無意味)な活動を社員に押しつけたりと、本業をおろそかにする姿勢が目立ち始めたという。彼は、「なんか違うんだよな」と愚痴をこぼしていたことを思い出す。
会社の売上が伸び、経営状態が良好の時というのは、多少の"アラ"には社員は鈍感で、気に止めることもない。しかし、いったん変調をきたすと、それまで見過ごされていたものが妙に表に出てきて、会社批判や経営陣への不満となって現れてくる。
「そんな傾向が見え始めた」。この会社も同じだったようだ。
この会社は、1社からの受注がすべてだったらしい。資本的つながりは全くないのに、ただただその会社からの発注にすべてを注ぎ込んでいた。その本体が好調ならば問題はないのだが、どうもそちらもあやしくなってきたのだという。そしてその日を迎えたのだ。
「全体集会があるからと社員が集められて、社長の話をきいた。もうおたくには発注しないって言われたから、やっていけないので、会社を閉じるって。清算らしい。希望退職を募るって…」
彼は会社の状態が芳しくないことは知っていたが、まさかいきなり希望退職を求められるとは思っていなかったようだ。
「関連会社も含めれば150人以上首切られるかな…」。
なぜその会社は1社からの受注にそれほどに勢力を注ぎ込んだんだろう、子会社でもないらしいのに。
「ひと月後には職安に通うことになるなあ」
「どうしよう…」
歴史の世界では、王朝等がその勢力を確立し、その後の繁栄が約束されるのは、三代目あたりか。
彼に職安に向かわせる事態に追い込み、会社存続の断念したのは、三代目なのだという。
「やっぱり、ぼっちゃんだったってことかな」。